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魔女と娘と人形裁判1

ここは、どこ?
私は、気がつくと、知らない場所にいた。
今まで、一度も見た覚えが無い場所だ。
それは、とても綺麗に整った、だけどもどこか薄気味悪い洋室だった。

私は、ぼんやりと座っていた。
知らない部屋の、知らない椅子に。

芳醇な紅茶の香りに満たされた室内。
目の前に堂々と鎮座する大きなテーブルと、その上に置かれた色とりどりのお菓子と紅茶。
その全てが、おしゃれなカップや、かわいらしいお皿の上に盛られる姿はまるでおとぎ話のよう。
客である、私をもてなすかのように、置かれている。

もしかして、私、ここに客として招待されたの?

それとも……?

頭に浮かぶ最悪な想像、それは……。

誰かに…、さらわれた?

テーブルを、ぼんやりと照らす光。
儚く光るのは、蜀台のろうそく。
それは、この部屋にある、たった一つの光。
同時に、それは薄暗い影を生み出す。
おしゃれなティーカップの裏、かわいらしいお皿の下。
お皿に置かれた美味しそうなお菓子の裏。
そして、ティーポットの裏。

暖かで穏やかなろうそくの光に照らされた、楽しそうなティーパーティ。
でも、その裏には、光に照らされなかった部分がある。
目の前の、豪華な茶器に遮られて、光を得られなかった場所がある。

私は、その影たちに、軽い親近感のような不思議な感慨を覚える。

この、影…。

私は、影に魅入られていた。

勿論、今が、そんな暢気にぼ~っと影とにらめっこしていられるような状態じゃないのはわかる。

ある日突然、何者かにより、見知らぬ場所に、連れてこられた。
これは、命の危険すら考えなければならない異常事態。
今、考えなきゃいけないのは、テーブルにできた影なんかの事じゃない。
今いる場所や、私を連れてきた犯人やその目的といったもののはず。

それなのに、何でこんなものが気になってしまうの?

わからない。
わからない。
わからない。

ろうそくが作り出す、幻想的な光と影に引き込まれ、意識が溶けて行く私。

目の前にある大きな物に遮られて光を取られなければ、今、影のある場所にも光が届いていたのかもしれない。
もし、ろうそくの火が灯っていなければ、このカーテンに覆われた部屋は、光の存在しない、闇一色の世界だったはず。
もし、この部屋に光が無かったならば、この影たちも、暗さが目立つ事がなかったのに。
もし、この世界に光が無ければ、影が暗い事なんて気にしなくてもよかったのに。

思い出せば、私の人生は、物の裏にできた影そのものだったのかもしれない。

蔵臼兄さんは、右代官家の跡継ぎと言う光を一身に浴びて輝いた人生を送っている。
愛娘の朱志香ちゃんも、その光に護られながら、何不自由なく幸せに育ってきた。

絵羽姉さんは、跡継ぎと言う光を、蔵臼兄さんに遮られてしまった。
でも、優秀さと言う光を求め、努力して、その光は今や溺愛する息子の譲治君までも大きく育ててしまった。

留弗夫兄さんは、絵羽姉さんに優秀さの光を遮られてしまった。
でも、その中で要領よく立ち回る術を学び、今やこうして陽の当たるところにいる。
今の戦人君の育ち方を見れば、家族にも自分自身の幸せの光を十分に分けられた事がわかる。

それに対して、私はどうなのか。
私と、真里亜はどうなのか。

この世界にある光のほとんどは、兄や姉に遮られてしまった。
私達親子に当たるのは、他の兄弟が当たった後の、残り物の光りだけ。
私達のいる場所は、ずっと日陰だった。

光を浴びた事がない私。
だから、私は、真里亜に光を分け与えてあげる事ができなかった。

そういえば、真里亜の学校の宿題にお花を育てて日記をつけるというものがあったっけ。
あの時、真里亜がお花を枯らしてしまって、泣きじゃくったのを私は思い出す。

そうだ、私達は、あの花と同じだ。

私は十分に光を浴びて成長する事ができなかった。
真里亜も、光を浴びる事ができなかった。

だから、真里亜は成長できなかった。
幼い私も成長できなかった。
日陰にずっといたせいで、歪んだ成長をしてしまった真里亜。
陽の光りさえ当たれば、もっと綺麗な花を咲かせることができたかもしれないのに。

そして、とうとう枯れてしまった。

私も、真里亜の幸せも。

光の裏には、影がある。
それは、この世の絶対的な法則。

努力すれば、頑張れば、信じれば、愛し合えば。

ずっと日なたにいる能天気な幸せ者は、みんな揃って正論を言う。
無神経な言葉で、持たざる者の心を傷つけながら。

そんなもの、努力して、頑張って愛して、信じ合って、それで上手く行くような人にとっては当たり前なのかもしれないけど、綺麗事だけで私達親子が光を浴びる事ができるなら、どれだけいいことか。

私は、これでも真里亜と幸せに生きるために、精一杯努力した、頑張った。
なのに、いつもダメだった。結果は散々だった。
死ぬほど努力しても、悶え苦しんで地を這いつづけても駄目なのよ!
私達は一体、どれだけ努力をすれば報われるの?
もし、そのために何をしても構わないというのなら、一体、どれだけの努力が許されるの?

ただ、信じあって、愛し合って、仲良しこよしで、じゃれついて。
世間を知らない、テレビのドラマくらいしか恋を知らない中学生カップルがいかにも好きそうな綺麗事。

それだけで愛や信頼が維持できるなら、どれだけ素晴らしい話だろうと私は思う。

もし、それだけで幸せが来るんだったら、私だってそうしたかったわ。
でも、現実は違う。

愛や、努力だけじゃ、どうしようもないくらいの不幸がこの世界に溢れている事を私は知っている。
例えば、それはお金。
愛はお金じゃ買えないって言葉があるけど、お金が無いと、借金を抱えていると周囲の人間がどんどん離れていくことを私は知っている。

例えば、それは人。
ロマンチックで歯が浮く言葉ほど、信用できない言葉は無い。
ロマンチックで歯が浮く言葉を散々に吐いて、いなくなるような人は、もう二度と帰ってこないという事を私は知っている。
愛ほど、無力で空虚な言葉は他に無いもの。

それを手に入れるために、必死に、努力して、愛し合おうと頑張った、それなのに。
何もかも壊れてしまった。
私も真里亜も壊れてしまった。

愛なんて、たった一度、強い不幸の風が吹いただけで吹き飛ばされる程度のものだという事を私は知っている。
外から来た災難によって、簡単に破壊されるものだという事を私は知っている。
最も儚く無力で、信用できないものだという事を私は知っている。

もし、愛が幻想なら、それを口にする人の言葉も幻想。
この世に、無条件で信頼できる言葉なんて、
絶対に裏切らない言葉なんて、存在しない事を私は知っている。

日の光を思うがままに浴びる事ができる者にとっての正論は、私達親子には、いつも重すぎた。
あまりに、残酷すぎた。

だって、そうでしょ?

持たざる者に許されるのは、影だけなのだから。
影しか許されていない者が、分をわきまえず光に憧れて頑張ったところで……。




さて、いつまでも、ぼんやりしているわけにはいかない。

そう思い、部屋の外を見ようにも、その気力が全然わかない。

カーテンが遮っているせいで、外の様子がわからない。

カーテンを開ければ、外の様子で何かがわかるかもしれないのだけれど……。

立ち上がろうとする私、でもだめだった。

体がだるい。辛い。
鉛のようにずっしりと重い。

ここは、魔女の貴賓室。
これから始まるのは魔女のお茶会。
招待されたのは、私ひとり。

…魔女?

その時、突如、頭の中で蠢き始める、『魔女』という2文字のキーワード。

頭が…痛い。かき回されるような感覚。

なに? 頭痛。
紅茶の香りのせい? それとも・・・?

その時、私の頭に浮かんだのは2つの痛みだった。

1つは、子どもの頃に聞かされたトラウマ。
悪い事をすると、森の魔女ベアトリーチェにさらわれて、もう二度とおうちに帰れないおとぎ話。
魔女ベアトリーチェにさらわれるのが、とても怖くて、ずっと泣いていた過去の記憶。
でも、魔女は死んだ、悪い魔女は死んだ。
私が殺した。
もう、この世に存在しない魔女。
いるはずもない魔女。
それなのに、何故、私は怯えているの?
まさか、私が殺した魔女が蘇ったっていうの?

そして、もう1つ。
『うー、魔女はいるんだよ、ママ!魔法の力で何でも動かせるし、空だってとんじゃうんだよ!』

最愛の愛娘、真里亜の楽しそうな声。

そして

『どうしてみんな信じてくれないの、ベアトリーチェは『い』るのにぃ!
うーうーうー』

最愛の愛娘、真里亜の悲しそうな声。

バチン!

響き渡る乾いた音。
何の音?

誰かが、真里亜の頬を叩いた音。
誰の音?
私の音?

『いつまでも、うーうー言ってんじゃないわよ!
あんたいくつよ! いつまでも、『い』もしない魔女の話ばかりしてんじゃないのあんた学校でいつもなんていわれてるのか、ご近所でどう噂されてんのか恥ずかしいのはいつも母親の私なのよこのクズゴミカス早く死ねばいいのにあんたなんて産まなきゃよかった』

誰?
酷い事を言ってるのは。
私の真里亜に、そんなことをいってるのは、誰なの?

悪い魔女が、真里亜をいじめてる。

助けなきゃ。

でも、止められない、全然助ける事ができない

『ママ!』
『ママ~!』
『ママ~~~!』

私に対して助けを求める、マリアの悲痛な声。

なのに、私は何もできない止められない。
悪い魔女が暴れ、吼え、叫び、マリアを壊していく。

魔女?誰?
あの悪い魔女、誰?

真里亜ぁっ!

思わず、大声で叫びたい衝動に駆られる。
なのに。

「!」

声が、出ない!

え?え?え?

思わず青ざめ、パニックになり、喉を押さえようとする私。

なのに。

あれ?あれ?あれ?

手が、動かない。

え?

立ち上がって足を踏み出そうとする。

でも、立てない。足が動かない。

一体何がどうなってしまったのか。

さっきから、ずっと必死にもがこうとしている、それなのに。

体は、ずっと椅子に座ったまま。

体が、全然動かない。

人にとって、自分の体が自由に動くのは当たり前のことだ。
もし、自由が利かなくなったとしたら、それは人にとって死にも勝る一番の恐怖。

これから、もし何が起こっても抵抗できない、逃げられないっ……。

もし今、私に与えられたものが死なのならば、一瞬で苦痛が治まるだろう。
死んだら、何も感じなくていいようになるんだから。

でも、ずっと死なせてもらわなかったら?
死なない程度にいびられ続けたら?
それも、無抵抗の私に対して。

痛いのに動けないまま、辛いのに死ねないまま、無限の苦しみを与えられる恐怖。

物言わぬ人形と変わり果て、なおも痛みを感じる心だけが残ったこの私をいじめる、恐ろしい無限の魔女の恐ろしい無限の魔法の数々。

想像するだけで、心が参ってくる。

このまま、私を招待した魔女が、部屋に戻ってきたら、その時私はどうなるの?

背筋にぞくぞくとした寒気が走る。

背中から、首筋までの血管がシャリシャリとシャーベットのような音を立てながら凍っていく。

誰に言われるまでもなく、決まっているじゃないか。

ウゴケナイワタシハマジョニ

マジョニ……

さっき、頭の中に思い浮かんだ痛みの1こめを思い出す。

悪い事をすると、森の魔女ベアトリーチェにさらわれて、もう二度とおうちに帰れない。
森の魔女にさらわれた私は、もう二度とおうちに帰れない。


さっき、頭の中に思い浮かんだ痛みの2こめを思い出す。

私は、母親なのに真里亜にろくに構ってやれない、悪いママ。
だから、私はもう二度とおうちに帰れない。

そして、私は、理解する。
これから起こる事は全て、決して逃れられない運命なのだという事を。

私は真里亜をいじめた。虐待した。
悪い事をすると森の魔女にさらわれる。
そして、二度とおうちには帰れない。

助けを求める真里亜をいじめる悪い魔女。
私が、悪い魔女から真里亜を助けられなかった理由。
それは、私が悪い魔女だから。感情に任せて真里亜に当たってしまうような悪い魔女だから。
悪い事をした私は森のベアトリーチェにさらわれたんだ。
だから、私はもう二度とおうちに帰れない。

だから私は真里亜に嫌われてるんだ。
私は真里亜の大切な物をいっぱい壊した。
作って、壊して、作って、壊して。

だから、私はベアトリーチェに何をされても文句は言えない。

真里亜はベアトリーチェの事が大好き。
怒鳴ったり、暴力を振るう私よりも、ベアトリーチェの事が大好き。

真里亜の大好きなベアトリーチェ。それを否定した私。
このまま、何をされても抵抗をする権利はないんだ。

もう、私は真里亜の元には帰れないだろう。
真里亜が私を許さないから。
私のことを嫌う真里亜がそれを望んでないから。

頭の中で、また聞こえてくる色んな音。
嫌な音。

『楼座、お前はどうしてバカなのか』
それは、お父様が私に呆れる声。

『全く、お前のような不出来な妹が右代官の名を語るなどありえん話だ。』
『そんな簡単な事もできないのぉ、へそでも噛んで死んじゃえばぁ?』
『へっへ、騙されるほうが悪いんだよ。』

兄や姉が、私を見下す声。

辛い、苦しい、でも言い返せない。
全部、本当の事だもの。、

『それでも親ですか、あなた』
『お子さんは施設の方に』

ああ、これは警察や、施設の人が虐待だ、お子さんを保護させろと責める声。
でも、私は言い返せない。
だって、全部本当の事だもの。

私は、自分の娘の真里亜を傷つける、悪いママだもの。
『ママ、大嫌いっ!』

そうよね、真里亜。
あなたも私のことが大嫌いよね。

みんなが、私を責める。
私を悪い人間だと罵る。

でも、私は言い返せない。
だって、全部本当の事だもの。

だから、私はさらわれた。

森の魔女に。



ああ……。
そんな風に鬱々と考えてしまう自分自身が、嫌になる。

どんどん、どんどん、嫌いになる。

私は、私のことが大嫌い。
卑屈な私が嫌い。
バカで、愚かな私が嫌い。
何よりも、短気で、ワガママで、自分のストレスを娘にぶつけて八つ当たりするような自分が大嫌い。

多分、真里亜だって、こんなママ大嫌い。
娘を虐待するようなママなんて、好きになってくれるわけがない。

子どもは、生まれる親を選べない。

ごめんなさい、真里亜。
こんなママで、ごめんなさい。

産んでしまって、ごめんなさい。
産んだのに、まともに育てられなくてごめんなさい。
自分で産んでおきながら、自分で壊して、ごめんなさい。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい


「ごめんなさい」、この言葉は私の心の中で、壊れたテープレコーダーのようにエンドレスでリピートされる。

私という呪われた影のような人生が、真里亜に当たる光さえも覆っていく。
私のせいで、真里亜まで光を失う。
私のせいで、日に日に暗くなっていく。

真里亜は、私のせいで不幸になった。
だから、真里亜には私を責める権利がある。
私を嫌いになる権利がある。
もし、真里亜が私を殺したいというのなら、私は喜んでその命を差し出そうと思う。

そういえば、真里亜、ベアトリーチェと仲良しだったっけ。

森の魔女、ベアトリーチェは悪い子どもを、さらう魔女。
仲良しの真里亜をいじめて、許してくれるわけが無い。

だから私は、もうどこにも帰れない。

私には、帰れる場所はどこにもない。

だって、みんな、私のことなんて大嫌いだから。



そう、一人で物思いにふけっていた時だった。

「よぉ、楼座ぁ、ガキの時は、よくもわらわを殺してくれたなぁ? 今からその仕返しを、たんまりしてやるぜぇ。あっひゃっひゃっひゃっ!」

下品な笑い声とともに、この部屋の主が戻ってきた。

現れたのは肖像画の貴婦人。
ようやく、森の魔女ベアトリーチェが到着したらしい。

後ろに、私を嫌う、一人娘の真里亜を従えて。

「きひひひひひ、お手柔らかに頼むよ。殺しちゃったらそれ以上痛めつけられないもの。」

真里亜は笑っていた。
邪悪に、不気味に、卑劣に、凶悪に、残酷に、無邪気に、妖艶に、醜悪に、意地悪に、ただ私に対する悪意を込めて。
これから、魔女と一緒になって、悪い子を懲らしめる事ができる愉悦に口元を歪ませていた。

「殺さない程度にいたぶる、か。マリア卿も、なかなかに通でおられる。
しかし、わらわの魔法はそなたの想像以上に恐ろしいぞ。心配せんでもよい。
何せ、一度くらい殺してしまっても、また生き返らせることができるからなぁぁ。

「きひひ、それなら安心だね。さすがベアトリーチェ♪ きひひひひ!
遠慮せず、ママを殺しちゃって。
そうだ、真里亜、いい事思いついちゃったよ。
手加減せずに、どんどんママを苦しめて、傷つけて、ぶっ殺して、そしてまた生き返らせて、苦痛にのたうちまわっている間に、また殺すの。
お人形さんになっちゃって、動けないママを、さくたろうのようにずたずたに引きちぎってやるの。
楽しいだろうなぁああ、きひひひひひ。
動けない、さくたろうを壊した卑劣なママには、逆らえない真里亜を壊した卑劣なママにはぴったりなお仕置きだと思うの。
苦しいだろうね。辛いだろうね。
だって、お人形さんは、どれだけ苦しくっても逃げられないんだよ、動けないんだよ、声を上げて叫ぶ事もできないんだよ~っ、あの時、ママに殺されたシエスタみたいに、散々痛めつけられたさくたろうみたいにぃぃぃぃいいいい!!!」

真里亜の目に宿るのは、ただ一つ狂気のみ。
それは、かつて私も憑りつかれていた、怒りと憎しみ渦巻く黒き魔女の狂気。
私が、真里亜に何度も使った魔法。
真里亜がこれから使おうとしている魔法。
自らの痛みを、負の感情を人に押し付ける事で己を癒す黒き魔法。

「ねえ、ママ、お人形遊びしようよ。
色んなお洋服だって着せてあげる、色んなポーズさせてあげる。
デザイナーのママを満足させられるような、素敵なお洋服を、さっき考えたの。
針が千本生えたお洋服なんて、すっごいお洒落だよね?
内側に向かって生えてるから、血がどばっと出ちゃうけど、赤い水玉模様みたいで、すっごく可愛いよね。
お洒落なマフラーなんて、いいんじゃない?
首がしまっちゃうような、きつく巻かれたマフラーなんて、いいんじゃない?
そういえば、さっき鉄で出来た靴を、暖炉で暖めておいたんだ、ママに気に入ってもらえると嬉しいなあ。」

ありがとう、真里亜。
真里亜の作ったお洋服なら、きっとママに似合うわ。
針のついたお洋服でめった刺しにして。
ふかふかのマフラーで、ママの首を締め上げて!
焼けた鉄の靴をはいてのダンスパーティ、きっと楽しいでしょうね。

「そういえば、ママ、最近体が硬くなったって、言ってたよね?
真里亜と一緒にダンスでも踊ろうよ!」

まあ、それは楽しそうじゃない。
そういえば、真里亜と一緒にダンスを踊ったのっていつ以来の事だろう?
もう、あれから随分長いような気がする。

「足を高く上げようよ、お肉が裂けちゃうくらい、高く上げて振り回そうよ。
手をグルグル回そうよ、骨が折れちゃうような、ありえない方向にぐいぐい曲げちゃおうよ。
きっと、いいストレッチになると思うよぉ。
体を思いっきり捻って3回点半くらいしたら、真里亜金メダルをあげちゃうよ。
ダイエットにもなるんじゃないかなあ?
体中のお肉が削ぎ落とされて、体重も減ると思うよぉ。
可愛いお洋服で、可愛くダンスを踊る、マリオネットのママ、想像しただけでも、なんて可愛らしいんだろうね?
ずたぼろで、ずる向けで、きっと、殺されたシエスタ556や、さくたろうみたいに、可愛らしいんだろうね?
そんだけ可愛らしいんだから、きっと、新しいパパになる、かっこいい男の人がママの事を好きになってくれると思うよ、きひひひひ。」

ごめんなさい、真里亜の寂しさに気づいていながら……。
真里亜のために新しいパパが必要だなんてのは、今となればただの建前、言い訳。
理屈をつけて無理やり納得しようとしてた。
本当は、ママが寂しかっただけ。
そして、母子家庭としての、世間体も怖かった。

自分自身のワガママのために必死になってたママを許して。

「たっぷり運動してお腹がすいたらさあ、一緒に美味しい蟹を食べよう。
ママはカニ、大好きでしょ?せっかくだからと思って、生きてるまま踊り食いにしようと思って、とぉっても大きいカニを生きたまま連れてきたの。
あれ?これじゃ踊り食いにされるのは、ママの方?
かわいそうだね。
あ、今のかわいそうっていうのは、ママの事じゃないよ。
ママなんかを食べさされるカニさんがかわいそうだなあって思ったの。
だってさぁ、ママのような腐った人間の屑なんか食べたらカニさんお腹壊しちゃうよぉ。
きひひひひひひひひひひひひひ!」

私は、あなたの怒りを受け止める。
これが、今の私にできる最大の償い。
それでも、真里亜は多分、悪いママを許してくれない。
仕方が無いか。
母親らしい事をしてあげる事ができなかったのだから。

ぱちぱちと、ベアトリーチェの拍手の音が聞こえる。

「おお、素晴らしい!グレェト!ビュゥチィフルッ!マーベラスッ!
エークセレントォゥ!
なんてグッドアイディアの数々。さすがはマリア卿というべき引き出しの広さ。いやはや恐れ入る。
その年でこれほどまでに拷問の極意を心得ておられるとは、まことに博学でいらっしゃるなあ。
聞いたか、楼座ぁ?
マリア卿がなぁ、弱い者に八つ当たりをする事しかできない脳無しのお前のために、最高の拷問を思いついたってさぁ。
良かったなあ、楼座ぁ! 
あれだけ酷い事をした娘に、愛想を尽かされるどころか、お人形遊びまだしてもらえて。
し、あ、わ、せ、も、の、だ、よ、な?
まあ、今回は、お前がそのお人形さんなわけだけどなぁあああああああ。」

「きひひひひひひひひひ」
「あはははははははははは」

魔女たちの狂った笑い声が、部屋中に響き渡る。

動けない、惨めな人形の私を、あざ笑うような声が響き渡る。

気がつくと、真里亜や、ベアトリーチェの影が、随分大きくなっている。

そうか、あの2人は、今、幸せの光に照らされているんだ。
目の前の無力な罪人を、ただ一方的に裁き、断罪するという悦びの光に。

そして、光を遮られた私は、また日陰。
思えば、私の人生は、ずっと誰かの日陰だった。

だから、こうして娘の真里亜の影に埋もれるのは、運命なのかもしれない。

良かったわね、真里亜。

ママと違って、最後にひなたに出る事ができて。



「さあ、はじめるよ、ママ。
魔女と娘の、人形裁判を。
真里亜がママを許せるかどうかは、ママ次第。
と、いうより真里亜が満足できたら、そこで裁判は終了、ママは無罪放免。
でも、満足できなかったら、ずっとママは有罪♪
永遠に罰を受け続ける事になるの♪
さあ、ママ!
苦しんでぇ♪ 叫んでぇ♪ わめいてぇ♪
どれだけ辛くても救いを呼ぶ声を上げることのできない人形の苦しみと絶望で、真里亜を楽しませてよ、さあぁぁぁああっ!
ねえ、ママぁ、真里亜を、気持ちよくさせてよぉぉぉおおおおおっっ♪
きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ。」

これから始まる魔女裁判
原告は真里亜。
裁判官は魔女ベアトリーチェ。

被告は私
これから始まる裁判で、一方的に裁かれる。
今の私は動かず、物言わぬ人形。
もう、異議を口にする事すらできない。

もう、どうなってもいい。
何をされても構わない。
もう、何もかもがどうでもいい。
したいなら、拷問でもなんでもすればいい。

これから、私は想像を絶するような辛い目に遭うだろう。

でも、私は何の抵抗もする事はできない。
したいとも思わない。

むしろ、これから私をもっと苦しめて欲しい、私をもっと傷つけて、痛めつけて欲しい。

だって、私のような罪人に、生きる資格なんか無いのだから。

だから、お願い。

真里亜、私を壊して。

私が、あなたのさくたろうにしたように。

お人形さんのように、バラバラに壊してっ。

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テーマ : うみねこのなく頃に
ジャンル : ゲーム

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待ってました!

黒真里亞最高です!
鬱展開に期待してます!

Re: 待ってました!

> 黒真里亞最高です!
> 鬱展開に期待してます!

自分の文章力で、どこまで書けるかわかりませんが、できるだけ直接的な描写を抑えつつ、
『痛そう感』を出すために、楼座の一人称視点で最後まで書こうかなと思ってます。
資料用に、原作再プレイしましたが、真里亜に、レナに、原作者の竜騎士07大先生は、黒化したキャラを書くのが本当に上手いという事を改めて実感。
自分が『なく頃に』シリーズにはまった理由の一つが、この黒化描写なんですよね。

もし、時間が許せば、祟殺しの圭一関連でも一本書きたいです。
プロフィール

パンダ5

Author:パンダ5
笹の葉を食う頃に礼にようこそ!
現在、朱志香犯人説解を作成中。ベアト理御=朱志香=うみねこのなく頃に原作者、狂言殺人事件説とその動機は「マスゴミにバラバラにされた信頼関係」というラインで考えています。
このブログはリンクフリーです。
リンクを貼った時は、報告をいただけると、励みになります。
その際、相互リンクの申し込みも可です。
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